遺産を受け取る側
遺産分割
遺言書が残されていない場合、相続財産(遺産)の分け方について相続人全員で話し合い、分配することを「遺産分割」といいます。
しかし、不動産や非公開会社の株式など分割が難しい財産もあり、また生前贈与を受けた相続人もいた場合、話し合いがまとまらず、遺産分割協議が進まないケースも少なくありません。
このような時、相続に関する専門家である弁護士が中立な立場で助言を行うことで、遺産分割協議の話し合いをスムーズに進めることが可能になります。
主な対応内容
遺産分割協議、相続人調査、遺産調査、生前贈与、寄与分、遺言書
遺留分侵害額請求
遺留分とは、一定の相続人に認められている最低限の相続分のことをいい、それを請求するのが遺留分侵害額請求です。
遺言書に相続分がまったく記載されていなかったり、相続分の記載はあっても極めて少額であった場合には、ご自身の相続分を侵害することとなっている相続人に対して、遺留分侵害額請求をし、法律に定められた相続分(遺留分)を確保することができます。この遺留分侵害額請求は、相続の開始を知った日から1年以内に行う必要があります。
また、遺留分侵害額について話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所に調停を申し立て、それでも合意できないときは訴訟の提起を検討します。
訴訟においては、遺留分の侵害を立証できれば、裁判所が相手方に遺留分侵害額を支払う内容の命令(判決言渡し)を下し、これにより紛争の解決が図られます。また、訴訟においては、判決言渡し前に、和解による解決も行われています。
主な対応内容
遺留分侵害額請求権、内容証明郵便、調停・訴訟、消滅時効、除斥期間
遺産調査
被相続人にどのような財産があるかわからない場合は、相続財産の調査を行う必要があります。
銀行口座・不動産・有価証券・生命保険・自動車など、プラスの財産だけではなく、借金・連帯保証債務などマイナスの財産も調べなければなりません。また、隠された財産がある場合も考えられます。
相続財産の内容が多様であったり、不動産に関する知識に不安のある方や相続財産の把握の仕方が分からない方の場合には、ご自身で遺産調査を行うのが難しいため、遺産の把握や評価について、弁護士等専門家にご依頼された方が良いと思われます。
主な対応内容
金融機関口座、不動産、有価証券、生命保険、車、隠し財産、借金の調査
遺言執行
遺言書の内容を実現することを「遺言の執行」といい、実行する遺言執行者を遺言書内で指定しておくことができます。遺言執行者は必ず選任する必要はありませんが、選任することで、遺産の名義変更などの手続きがスムーズに進みます。
弁護士を遺言執行者に指定することで、遺言書の内容が確実に実行されるよう準備を行い、将来の相続開始後は、相続人の皆様は遺言執行者に遺産の分配、名義変更など煩雑な手続きを任せることができます。
主な対応内容
遺言執行者、相続財産の管理、相続財産の目録作成
相続登記・名義変更
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合に、その不動産の登記名義を被相続人から相続人へ名義の変更を行うことをいいます。
相続で不動産を取得した場合は、その権利を登記によって確定しておかないと、将来、相続人同士でトラブルになった際に、「この不動産は自分が相続したものだ」と主張することが困難なる場合があります。また、他の相続人が名義変更前の不動産を譲渡してしまうというトラブルの発生も考えられます。
このような問題から、2024年4月1日より相続登記の義務化が始まり、過去に発生した相続についても相続登記が義務化されます。相続登記は、ご自身が不動産所有者の相続人であることを認識した日から、3年以内に行う必要があります。
主な対応内容
不動産所有者、登記名義、相続登記の義務化、名義の変更
相続人調査
相続人調査とは、誰が相続人であるかを戸籍で確認することをいいます。
相続人が明確な場合、一般的に相続人の調査は必要となりません。ところが、相続人に疎遠な方が含まれているような場合、相続人がご健在かどうか、また既に相続人が亡くなられている場合は、代襲相続人の有無を調査する必要があります。
相続人の調査は、被相続人の戸籍を取得して読み解き、家族関係を把握して、さらに必要な戸籍を揃えて、家族関係(相続関係)を把握していきます。
しかし、場合によっては数十通も戸籍を取得する必要があり、何ヵ所もの役所とやり取りをしなければならない他、また、昔の戸籍は様式が違ったり、手書きのものもあるため、不慣れな方だと戸籍を読み解くことがかなり難しく、相続人を把握できないおそれもあります。
相続人調査を自分で行うことが難しい場合は、専門家に依頼する必要があります。
主な対応内容
戸籍謄本、法定相続人、代襲相続、除籍謄本、改製原戸籍謄本
相続放棄
遺産相続は、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではありません。借金や連帯保証債務などのマイナスの財産(負債)も相続の対象になるので、注意が必要です。
このように遺産が負債だけの場合やプラスの財産よりも負債が多い場合には、相続を放棄することによって(相続放棄)、負債を引き継ぐことを回避できますので、便利な制度といえます。
もっとも、相続放棄の手続きは、ご自身が、相続人であることを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申立てを行わなければなりません。この期限を過ぎてしまうと、負債を引き継ぐ義務が発生しますので、できるだけ早く弁護士にご相談いただければと思います。
なお、3か月という期間では、時間的に余裕が無く、遺産の全容を把握することが困難で、相続を放棄すべきかどうか判断できないケースがあります。このようなケースの場合、家庭裁判所に対して、相続放棄を出来る期間(熟慮期間といいます。)の延長を求める手続き(熟慮期間の伸長申立て)が制度化されていますので、この制度の利用を検討することとなります。
主な対応内容
相続放棄、熟慮期間の伸長、借金、負債、家庭裁判所、申立て
財産目録・調査
財産目録とは、保有するすべてのプラスの財産(預貯金、有価証券、不動産など)とすべてのマイナスの財産(ローン、借金など)をリストアップし、一覧にして財産の状況を明らかにしたものです。
相続が発生した際に、財産目録がないと、相続人はいちから被相続人の財産を調べる必要があるので大変な負担となります。
自分で財産目録をまとめておくことで、遺言書を作成する際は、誰にどの財産を相続させたいか、配分する財産のバランスを判断する材料となります。
主な対応内容
預貯金、有価証券、不動産、各種ローン、借金、遺言書、相続税
遺産分割調停
遺産分割協議で合意できなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てます。
調停手続きでは、裁判所から選任された調停委員が、各相続人から主張を聞いたり、提出された資料を確認した上で、各相続人の意向に沿うような内容での遺産分割案を示してくれます。
調停では遺産の分割方法について制限はなく、相続人全員が合意すれば、その分割方法で決まります。合意ができれば、調停が成立となり、調停調書が作成され、この調停調書に基づいて、不動産の名義変更や預貯金・株式の現金化等を行います。
もっとも、調停手続きは、相続人のご本人様でも参加することが可能であるものの、調停委員は、中立的な立場にいるため、積極的に一方の相続人の利益となるような助言をしてくれることは期待できず、また、ご自身に有利な遺産分割案を示すためには、相続に関する民法の規定を十分に理解していること以外に、相続財産の価値を正確に把握することが必要となってきます。
また、調停手続きは、1~2か月に1回の頻度で行われますものの、手続きに必要な資料の準備や分割案についての意見をまとめることに、時間や労力が必要となり、大きなご負担となることが考えられます。
そのため、遺産の内容が複雑であったり、多様な場合や相続人間で意見の対立がある場合は、出来れば、相続問題に精通している弁護士に代理人として、手続きに参加していただくのが無難ではないかと思われます。
主な対応内容
家庭裁判所、調停委員、調停委員会、分割方法、特別受益、寄与分、調停調書
遺産分割審判
調停が不成立になると、そのまま審判手続きに移行するので、当事者が改めて遺産分割審判の申立てをする必要はありません。
審判は、相続人間の話し合いや合意ではなく、相続人それぞれの主張や提出された資料などをもとに、裁判所が客観的に遺産の分割方法を決めることになります。
審判では相続人全員の出席は必要ではなく、当事者一方の参加でも行われます。
審判が確定すれば、判決などと同様の効果として、その内容を覆すことはできなくなり、ケースによっては強制執行が可能になります。
もっとも、この審判手続きは、一般的な裁判手続きと同様に、相続人の主張をまとめた書面や証拠資料を裁判所に提出することが必要となる等、相当な労力が必要となり、また手続き面での知識・経験が必要となります。また、調停手続きとは異なり、調停委員から、必要な資料についての助言などは通常期待できないため、相続人のご本人様が、この審判手続きを直接対応することは、実際には難しいのではないかと思われます。
主な対応内容
審判手続き、審判期日、主張・立証、即時抗告、強制執行
限定承認
被相続人の遺産を相続する場合、相続を承認することとなります。
他方、被相続人の遺産の内容が、借金などマイナスの財産だけであったり、プラスの財産よりもマイナスの財産(負債)が大きい場合は、通常、相続人の皆様は、家庭裁判所に対して、相続放棄の申述をします。
ところが、被相続人の遺産の内、プラスの財産とマイナスの財産(負債)との金額的な大小関係が直ぐに把握できないようなケースがあり、このようなケースにおいても、相続放棄をした場合、本来は遺産のお金を受け取ることが出来たにも関わらず、相続人がこれを受け取ることが出来なくなるというデメリットが考えられます。
限定承認とは、このようなデメリットを回避するために、相続した財産の範囲内で、被相続人の負債を弁済し、余りがあれば相続できる手続きを制度化したものです。
この限定承認は、相続放棄と同じく、相続があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てを行います。
主な対応内容
負債、弁済、家庭裁判所、財産目録の作成、限定承認申述書、熟慮期間の伸長
共有物分割
不動産などを2人以上の相続人で共有相続した場合、処分する際には共有者全員の同意が必要になるなど、さまざまな問題が生じることがあります。
共有物分割とは、複数人で共有状態になっている不動産の共有関係を解消するための手続きです。
共有物分割の方法には、①1つの財産を共有者ごとに単独所有の財産に分割する「現物分割」、共有する財産を売却した後に、②共有物を売却し、売却代金を分割する「換価分割」、③共有となっている財産について、共有者の1人が他の共有者の持分を取得する「代償分割」があります。それぞれの事案ごとに、相続人のご意向などにしたがって、大きくは①~③のいずれかの方法を選択することとなります。
主な対応内容
共有相続、単独所有、現物分割、換価分割、代償分割、共有物分割協議、共有物分割調停・訴訟
寄与分
寄与分とは、「親の家業を無給で手伝っていた」「介護を献身的に続けていた」などの理由で、特別な寄与をした相続人に対して、法定相続分を超える財産を相続できることの認められる制度です。
寄与分が認められるには、相続人の被相続人に対する貢献が、①「特別の寄与」である必要があります。しかし、親の面倒をある程度見ることは、法律上当然なこととされているため、「特別の寄与」と認められるのは厳しい場合が多いでしょう。また、②寄与行為によって、被相続人の財産が維持または増加したこと、③寄与行為と被相続人の遺産の維持または増加との間に因果関係がみとめられることが必要です。
この寄与分の金額について、相続人同士の話し合いで合意できない場合は、裁判所による調停で話し合い、または審判手続きで裁判所に判断していただくことになります。その他、この寄与分は、従前、相続人にしか認められず、例えば相続人の配偶者が被相続人の介護などを行っていても、その配偶者は財産を取得できないという悩ましい問題がありました。
そのため、令和元年7月1日から、被相続人の親族が、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について寄与したと認められる場合、この被相続人の親族は、相続人でなかったとしても、相続開始後、相続人に対して、寄与に応じたお金を請求できる制度(特別寄与の制度)が創設されることとなりました。
主な対応内容
寄与分、介護、家業、無償、特別寄与料、遺産分割協議、調停、審判
特別受益
特別受益とは、相続人の中に被相続人から遺贈や生前贈与を受けた者がいる場合、その贈与などから得た利益のことをいいます。
この利益を考慮しないで、残りの財産だけを遺産分割の対象とすると、他の相続人にとって不公平な結果となります。
そのため、特別受益分を相続財産に持ち戻して、各相続人の相続分を算定することで、相続人間の公平を図ることができます。
この特別受益は、一般的に、特別受益を考慮しないと相続分が少なくなってしまう相続人が主張することが多いと思われますが、特別受益があったことを示す証拠を示すことが重要となります。
主な対応内容
遺贈、生前贈与、死因贈与、持ち戻し、持ち戻し免除